りょうまくん


私が数年前、2歳児を担任していた頃
「りょうまくん」という子がいた。
0歳児の赤ちゃんの時にも担任していた子で
密かに私のお気に入りだった。

りょうまくんは、遊びのリーダー的な存在で
しっかり者。
そのくせ、ものすごい臆病者で
怖がりな所もあった。

お散歩の途中で会った、
おばさんが連れたかわいい子犬。
まだ生後3ヶ月ほどのかわいいポメラニアンだったのに、
りょうまくんだけ触れなかった。

すごく興味はあり、本人も触りたそうにはしているのだが
「ヨシヨシしてあげたら?」
と声をかけると、やっぱりビビってしまい、
どうしても手がでない。


保育園では、毎年4,5月頃にブームになるものがある。
それは、ダンゴ虫。
触るとまんまるのボール状になってしまう、あの虫である。

大好きな子は、砂遊びのカップなどに何匹も集めて
大切そうにコレクションしていたりする。
手のひらを歩かせて、嬉しそうにしている子もいる。

りょうまくんも、触れないくせにダンゴ虫探しには
非常に熱心だった。

「せんせい、一緒にさがして」
というので、プランターをずらしてみると
うじゃうじゃいる。

「すごーい、いっぱいや!」
嬉しそうなりょうまくん。
彼は、そのダンゴ虫を仲良しのこうちゃんにも見せたかった。
でも、こうちゃんは遠くの方で違う遊びをしている。

「こーちゃ〜ん!こっち来てみ〜!!」
大声で叫ぶが、こうちゃんの耳には届かなかった。

「こうちゃんの所まで、このダンゴ虫持っていって、見せてあげたら?」
そう言うと、相当迷っていたが
勇気を出して持っていく事を決意したらしい。
まんまるのダンゴ虫をそっと手のひらにのせた。
その途端、ダンゴ虫が伸びたのである。

「うわっ!!」
ビビったりょうまくんは、そのままお漏らししてしまった。。。
普段、滅多に失敗する事はなかったのに。
いたくプライドを傷つけられたらしく、
大声で泣いてしまったのだが、
なぐさめる前に、あまりに可愛いので思わず笑ってしまった私は、
イケナイ保育士であった…

そして、お漏らし用にリュックにいつも着替えを用意していたのだが
その時、リュックの中には、ピンクのズボンと黒いスカートが入っていた。

「これにお着替えしような」
とピンクのズボンを手渡すと、気に入らなかったらしい。
「でも、コレの他は、このスカートしかないよ?」
とスカートを見せると、
「それがいい!」
というので、結局スカートをはかす事になった。

りょうまくんは、お姉ちゃんとそっくりの可愛い顔をしていたので
多分、髪の毛が長ければ、そこそこ似合ったとは思うのだが。
髪型がスポーツ刈りだったので、どう見ても似合わなかった…

しかし、本人は気に入ったらしく
結局、家に帰るまでずっとそのスカートで過ごしていた。。。


数年後、私はその保育園を辞め、
りょうまくんは違う町に引っ越していった。
もう、会うことはないのかな?
来年の春には、ぴかぴかの1年生になるはずなんだけど。
また、どこかで会えたらいいな。
でも、会えなくても君の事、
ずっとずっと忘れないよ。




(2002.8.8)


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